タクシードライバーの日記

スリーブガン・システムの解析

鏡の前に立ったデ・ニーロ=トラヴィス。突然、M65フィールドジャケットの袖からジャキーン!と飛び出る小型拳銃!

監督マーティン・スコセッシ、脚本ポール・シュレイダーによる映画「タクシードライバー」(76)は、今なお多くの映画ファンたちを魅了するカルト映画の殿堂入り作品である。

本作は高い作品評価に加えて「ゴッドファーザーpart II」でブレイクしたロバート・デ・ニーロの俳優としての地位をより一層高め、加えて天才子役ジョディ・フォスターの演技力をも世間に知らしめた。

また、クライマックスの売春宿殴り込みシーンで、当時としては画期的すぎる壮絶なバイオレンス描写をスクリーン上に展開させ、アクション映画ファン、銃器マニアたちからも一目置かれることになった。
そんな「タクシードライバー」の中で最大のインパクトを誇ったのがスリーブガン、仕込み銃、レールガン、様々が呼称があるが、とにかく袖からジャキーン!と銃が飛び出す装置である。

どう見ても精神を病んでいる戦場帰りの主人公、トラヴィス・ビックルが、女にフラれた腹いせに議員暗殺を計画。で、自室にこもってシコシコと作ったこのギミック。作品の代名詞でもある鏡の前のシーンと、クライマックスの殴り込みシーンで、このスリーブガンに魅了された男子は数多い。

私ももちろんその1人。欲しくてたまらない、しかし持っててどうする?いやいや、そんな事言ったら弾丸の出ないモデルガンなんて存在価値ないじゃん!

て事で、21世紀になっても未だ誰もやりそうにないので、しびれを切らした私は、この度、このシステムの解析と作成に挑戦してみた訳なんす。

1:そんなレール、売ってません…

このスリーブガン、基本的にトラヴィスが室内のありものを加工して作ったという感じに描かれている。まずはレールの調達。カーテンレールというイメージがあるが、これはスライド式の棚か何かなのかなぁ?未だにはっきり分からない。

でもともあれ、このシステムの要はレールであることは間違いない。ベアリング球を使った引き出しレールを細工するという選択肢もあったが、それだと映画と別物の仕組みになってしまう。やっぱり映画みたく、レールの溝をスライダーユニットが前後するという基本構造は絶対に譲れないところだ。


切断されたレールの断面。この溝の入り方は何?何なのっ!
いやしかし、まじでスリーブガンを作ろうと最初に思い立ったのは22〜3歳の頃だろうか。当時は資料が劣悪マスターで有名なVHS版「タクシードライバー」しかなかったので、正直、何がなんだかよくわからん…みたいな感じ。

結局、若かりし日のチャレンジは闇雲にホームセンターで購入した幾つかの金属部品を手元に残して、「お手上げ」という結論の末に潰えたのだった…。

が、それでも脳裏には「どっかにいいカーテンレールないかな?」みたいな回路が刻まれてしまい、以後、20余年、ホームセンターに行けば、本能的にスリーブガンシステムに使えそうなレール類を探す習性が身に付いてしまった。これはマジ。

で、話を戻すと、あらためてスリーブガンに取り組もうとDVDチェックしてみると、まともなマスターになったおかげで細部が見える見える! これはもらったー!と喜ぶも、やっぱこんなレール、そこらに売ってないっす!チクショー!

2:お願いっ、スライダーの中身を見せておくれ…

トラヴィス、仕事速すぎ!カーテンレール切り終わったら、もう完成しちゃって、ジッポーオイルをレール内に塗ったり、調整に入ってるし!

途中経過をもっとじっくり見せて欲しかった…。しかしVHS時代に比べると、DVD版はマスターの状態も格段に良くなり、色々と見える見える!これは嬉しい限り。

で、この調整シーン、レールの中をアームのついたスライダーがなめらかに前後する。かすかにキリキリ音が聞こえる。効果音じゃなくて、撮影時に同時録音された音ならば、このスライダーの中身は何なのか
とにかく滑るように、ブレなく動く。ベアリングなのか? 結局、どのアングルからも見えないため、この箇所について延々試行錯誤させられるハメに…。



3:射出方法の謎

横からのアングル。

銃を取り付けたスライダー部分を勢い良く飛びださせるための動力がずーっと謎だったんだけど、あらためてしつこく何度も何度もこのシーンを見ていてようやく気づく!

スリーブガンの前部にとりつけられた車輪状の部品。その周辺に見えるガイド溝。車輪をガードするかのような曲線パーツ。スライダー側のアーム根元に溶接されているU字状の変なフック。そしてテーブルの上に転がるゴムチューブ。

そうかぁ、 そういう事だったのか!と、はっちゃいた!謎が解けた時はさすがに小躍りしましたのよ、わははははは!

上からのアングル。

レール最後尾の突起(ひっかけ)にゴムチューブをかけ前方へのばす。ゴムチューブは車輪=プーリーを通って後方へ引き返し、前進した状態のスライダーU字フックに取り付けられる。こうする事で、スライダーを後退させた時に、前進する力をかける事ができる訳ですな。仕組みとしてはいたってシンプル!

あと、このシステムの中でも目がいく部分。腕に巻き付ける部分のギプスなんですが、これって腕の形に合わせて型を取ったようには見えず。これは雰囲気重視って事なのかなぁ。


完成して試運転中のスリーブガン。やはり良く見るとピーンと張られたゴムチューブが確認できる。

駆動部分の仕組みはゴム+プーリー方式でまず間違いなし。で、問題はストッパー。スライダーを後ろに引き、銃を下へ傾ける事でストップがかかる。

その状態から腕を振り下ろす。遠心力によって銃が上へあがり、ロックが解除されてスライダーが前進する。仕組みとしては誤作動招きそうでイマイチじゃね? でもまあ一応は納得。

よし!もうこれで基本的な部分はOK、さあ作るぞー!と言いたいけど、一番肝心なロックの仕組みがどうもはっきり見えない。何十回チェックしてもダメ。惜しいところまで来てるんだけどなぁ〜。


4:ギミック解析のまとめ




ストッパーについてはレールの後部、下側にある出っ張りが怪しい!と思いあれこれ考えてみる。
スライダーそのものが後退しきった時点で下へ少し回転。スライダー前端の突起が、ストッパーらしきところへ引っかかるという方式が、一番シンプルでしっくりくる。
スライダーはレールに沿ってガタつかずに動き、下がり切った時だけ5度程度傾くというギミックって、どう考えてもスライダーが半身レールから脱輪するような感じになるのでは? なんかメカとして美しくないなぁ〜と思うも、確実にいいところまで解析は進んでいるので、もう前進あるのみだぁ!

5:試作初号機

で、完成した初号試作機。何気にここへ辿り着くまでにもの凄く時間がかかってるんだけど、そんな涙のストーリーは割愛。

レールは妥協まじりにポピュラーかつ安価なカーテンレールをセレクト。1/1サイズのコルト25オート型ターボライターを装着し、でたらめな工作ながらも遠心力によるロックの解除で銃が飛び出るシステムを現実化した。

いやあ、人間、その気になればなんとかやれるもんだね!これでようやくスタート地点って事で、決意も新たに、改良の日々がスタート。


↓こちら動画は初号機の面影が残る時期。今から振り返れば、ギリギリ〜ってきしむ感じがメカとしてはむしろ面白いかも。

動画

ちなみにこの頃はスライダーはレールの外側と内側から板2枚で挟んでネジ留めしてるだけ。それでもなんとなく作動してしまう。ただ、劇中のような滑らかさがないし、耐久性も難あり。何より、作動させていても気持ちよくない。機械がなめらかに作動する時の気持ちよさってのは大切だ。

で、 最終的にこのスライダー内部は樹脂の回転するコマをふたつ取り付けて、レール内部を走らせる事になるんだけど、そこに到達するのはまだまだ先の話。

6:袖から出た!


ようやく袖から銃が飛び出すまでに至った。

動画

袖からの射出は、開発当初、絶対に無理だと思っていた。あの映画のM65ジャケットは絶対に袖口広げたり細工してんだろ!と。しかも収納もえらくスムーズに行われていたので、そのカットではゴム外したりして、ウソついてるだろう、と決めつけまくり。が、実際に劇中のアクションはすべてインチキなしで再現可能である事が判明してきた。

あのプロップを作ったのが誰か知らないが、実によく考えられている。ピン等を使ってロックを解除するのではなくて、遠心力を使う方法は誤射出を招き易いかと思ったが、全くそうではない。ただ、反動のでかい44マグナムなんか撃ったら、その衝撃でロックが解除されて飛び出すだろうけど。

ともあれ、この仕掛けを考えついた「タクシードライバ−」のスタッフ、 本当に激しくリスペクトだ!

試作もいよいよ大詰めで、このあたりでYOUTUBEに初投稿。実はこのモデルはストッパーがレールの下側じゃなくて、上についてるバージョン。結局、色々な方法を試してみて、最終的には下側に落ち着く事になった。

あと、ここまでは腕に巻き付けるベルトは、革ベルトの内側にアルミ板を張って、腕のラインに沿うようにしたり、あの手この手をやってみたが、結局、単にマジックテープ仕様の結束ベルトのみで固定するのがベストというオチに。映画本編のあの仰々しいギプスはなんだったのか? 見た目はカッコいいんだけど。


7:ヤター完成!


先にあげたYOUTUBE動画の試作品の後、理想的なカーテンレール発見。その後、更に3モデルくらい作ったんだけど、もう面倒なので色々すっ飛ばして、完成品の各部の説明を。

●写真・上左 ストッパーは下側に配置。スライダーは映画本編だと進行方向のみ傾斜がついているが、完成品は山形に。これはなぜかと言うと、コンパチで左手用にできる設計にしたため。アームはネジ止めによる伸縮式に。

●写真・上中央 スライダーの内側。レールの中をジュラコンのコマが走る仕組みにした。しかも銃の重さにより、前輪がレールの下側、後輪がレールの上側に密着するため、想像以上になめらかな動きを実現できた。対摩耗性も高いし、ジュラコンパーツの導入は大正解!

● 写真・上右 一番の課題だった後部。これはもう文字で説明しずらいが、ともかくレールから脱輪せず、かつガタつかずにスライダーを下側へ傾ける仕組み。しかも、ストッパーの引っかかりの深さを上下に取り付けた板で調節できる。金属パーツはすべて工場へ外注となったが、それでも微妙な個体差が出ると予想。微妙な引っかかりが肝心なストッパー部分へ配慮した結果だったり。
あと、 ゴムの取付箇所がずいぶん前になってしまったが、まったく問題なし。

という訳で結果的に、様々な腕の太さ長さ&サウスポーへの対応、尖った部分の保護、M65ジャケット袖内での空間確保、量産のし易さ、コスト、という多くの要素が加わったため、「タクシードライバー」劇中のスリーブガンとは色々変更点が出てしまった。前後にエンドキャップをつけた事で、ストローク距離も少々短くなってしまったが、コルト25オートくらいならちゃんと袖に隠れるし、まあいいか、と。

で、製品版の作動はこちら投稿動画。正直言うと、射出、格納、共に映画本編を超えてしまったと豪語。実際にデ・ニーロ、鏡の前のシーンで3回袖から銃を出すんだけど、2回目、3回目は引っかかってる感じで、スムーズに銃が出て来ない。もちろんあのシーンはもはや伝説とも言えるデ・ニーロのあの芝居を見てればよいので、そんなチンケな理由で作品の質にケチをつける訳ではない。けども、さすがに大の大人が量産を前提に3ヶ月みっちり思案した甲斐あってか、今回のスリーブガンは機械としてはプロップのレベルを超えた。

もちろんあのプロップという素晴らしい道しるべがあったればこその話なので、リスペクトの気持ちはもちろん1ミリも揺るがない。しかしながら、まあ自分をちょっと褒めてやりたい訳なんす。

と、色々と大仰な講釈をたれているが、実際に、この機械、腕につけてガチャガシャ遊ぶだけの大きなお友達用おもちゃなんだよなぁ〜。

最後にこのメカの名前。スリーブガンじゃ味気ないので、思い切って「びっくるくん」と命名。もちろん主人公の名前“トラヴィス・ビックル”から。こういう珍妙なアイデア商品は往々にして「〜くん」という名前になりがち。エアガン業界だと、過去に簡易エアタンク「軽〜るくん」とか、電動給弾装置「クイっくん」とかあったし、そいういうノリで。アメリカとかでもコーヒーの自販機が「Mr.コーヒー」だったり、“Mr”系のアイテムが多いような印象が。勝手な思い込みかもしんないけど。

てな訳で、遂にいつでもどこでも袖から銃がジャキーンと出せる、70's映画ファン待望のアイテムは完成した。実は「たのみこむ」でも提案出ていたのね。

買うとか買わないは置いといて、とにかくあの装置がこの世のどこかで販売されている。映画マニア的にはその事実がとても大切なのである、多分。

ともあれ、お疲れ様、自分!